バレたことで「幸せだ!」と思える人生
うちは母子家庭でいつも母親が生活費に困っているそんな家庭で育ちました。
小学生の時は駄菓子屋で皆がお小遣いで好きなお菓子を買って楽しんでいる時も自分だけお金がなくて、友達からめぐんでもらったりそんな惨めな生活を送っていました。
中学に入学してからも相変わらずで文房具など必要なものを買うのにも困り、靴も一年に1度くらいしか買えないのでボロボロで穴の開いたのを履くしかありませんでした。
高校に入りアルバイトを始めましたが稼いだお金はお小遣いというよりは生活費でした。
小学生の妹がいたので彼女のためにもお金が必要でした。
・小銭なら行ける
ある日母親が職場でけがをしてしまい働けなくなり収入がゼロになってしまう事が予想されました。
その日バイト先の休憩室でお財布が無造作に置かれているのを発見しました。
まるで盗ってくれと言わんばかりでした。
明日修学旅行の積立金を払わなきゃならなくて妹に食べさせる弁当を買うお金がなかったのです。
辺りを見まわし500円玉1枚と100円玉2枚を掴んでいました。
トイレの個室に入り平常の呼吸に戻そうと必死だったのを今でも忘れません。
その日を境に自分は変わってしまいました。
「小銭なら行ける」と悪魔のささやきがいつも聴こえてくるようになってしまったのです。
学校のロッカー、銭湯の脱衣所、社会人になってからは昼休みに無人となったのを見計らい机をあさったり、あらゆる所でそのささやきに従って行動すること10年以上続いていました。
もうとっくにお金に困っているわけではないのに「今なら大丈夫」と暗闇から声が聴こえて来るのです。
「自分は特別不幸なんだからいいんだ」とか正当化するような声も同時に聴いていたようにも思います。
罪悪感など微塵もなく続けていたわけですから。
小銭とはいえおそらくその時点で100万円以上は他人のお金を使っていたと思います。
・ありがたい日が訪れる
でもついに自分のこの奇異な行動に終止符を打ってくれるありがたい日が訪れることになります。
同僚と2人で遅くまで残業してました。
彼のミスで残ることになりすごくイライラしていました。
彼が席を立ったすきにイラつきも相まって彼のカバンをあさり千円札を握っていました。
気配を感じ後ろを見ると彼が立っていましたので慌てて金を戻しました。
彼は持っていた缶コーヒーを一本手渡しそのまま黙々と仕事を続けていました。
その場では怖くて何も話すことは出来ませんでした。
彼は転職してきたばかりで、大人しい感じでプライベートで話をしたこともなくどんな人間なのか全く分かりませんでした。
「人に言うかな」と暫く心配しながら出社していました。
彼も職場に慣れて来ると気さくに話すヤツでした。
自分がコソ泥をしているという噂が立つこともその後ありませんでした。
彼にコソ泥の現場を見られて以来悪癖から離れることが出来たわけで、彼に感謝すべき所なのかもしれません。
でも、改めて思ったのは彼はどれだけ自分が犯罪を繰り返していたのか知っているわけでもなく、被害額もゼロなわけですから、単純に彼にお礼を言えば自分の気が済むのかよく分からずでした。
ただ、悪癖から離れられたことに感謝すると同時に盗んだだろうお金を返金したいという思いを持っていることに段々気づいてきました。
そこで貯金もたまっていたので被害総額の概算100万円をガッと恵まれない子供たちに寄付しました。
この時が本当に自分の人生をやり直した瞬間だったと思います。
自分は犯罪者なのだという自覚もなかったわけですがこの寄付をした瞬間「償えた」という気持ちになったのでやはり犯罪者に違いなかったわけです。
単にバレたことで人生をやり直すきっかけをもらえた自分は不幸なんかじゃなく「幸せだ!」と今思えます。